「なんですって? よく聞こえなかったわ」

「君みたいな狂犬に刃物なんか……」

「同じこと二度、言わんでいい!」

 先に耐えきれなくなったのは柚月の方だった。
 怒鳴りながら青年の胸ぐらを掴む。

「あんたねぇ、こうして何かっちゃ呼び出すけど、私にも生活があるの! その前に、女子高生なの! 未成年なの! バイト禁止の学校に通ってるの! 勉学に勤しむ現代日本の高校生をノーギャラで呼び出して悪人退治させるなんて……労働基準法どころか、人権無視よ! あんた、何様!?」

 一気にまくし立てた柚月に距離を詰められても、青年は眠たげな表情のままだ。

「初めて会った時、僕の名前は東雲 漣(しののめ れん)って教えたはずだけど」

「いつ、あんたの名前を訊き直したよッ!?」

 犬歯を見せて突っ込む柚月。
 さらなる迎撃体勢を強化したため、背後から近づく気配に気付かなかった。

 のび放題の葦を踏み、柚月たちに声をかける。