「もー、いいわよ。だったらせめて、ここがどこか教えて」

 ここへ来る度、柚月はタイムスリップした気になる。

 階の先には人の手で整えられた和風庭園が広がり、池まである。
 視界一面の景色には、着物を身につけた人々が忙しなく動いていた。
 大方、住み込みで働く使用人だろうが、走り回って遊ぶ子供たちも大勢いる。

 部屋には障子や襖の類はなく、几帳や屏風などで区切ってあった。

 歴史の教科書でしか見たことのない寝殿造りの邸である。
 最初に召喚された時は、平安時代に飛ばされたのかと柚月は誤解した。


 もちろん、その予想が間違いであることを東雲の口から知らされる。



「【月鎮郷】」

「地名じゃないわよ!
 ここは、私が住んでる地球からどんだけ離れてんのか訊いてんのッ!!」

「近くて遠い」

「真面目に答えんかッ!」

 多少ペースを乱されつつも、柚月は譲らなかった。
 この世界に召喚され、利用される以上、そろそろ本当のことを知っておきたい。