「そんな可哀想な娘、どこにいるの?」
至極、当たり前に思う不満を鼻で笑われた。
柚月は、むっと唇を尖らせる。
「いるでしょ、ここに。あんたの後ろ」
「かかと落としで地面をめり込ます娘さんに、そんな単語を使っちゃいけない。事実が歪む」
「……………………」
抵抗どころか戦意を根こそぎ奪う男。
それが、東雲 漣である。
階(きざはし)のある長い廊下を歩く後ろ姿は、悠然としていて気品がある。
それこそ神社の境内で彼に遭遇したなら、参拝に訪れた娘さんたちが願いも忘れて見惚れてしまうこと請け合いのルックス。
ただし、中身はひねくれた腹黒。口を開けば毒舌。
この落差が激しい人柄のせいで、柚月は幾度となく頭に血をのぼらされてきた。
そして、いいように利用される。