あばら家と表現するのが適切と思われる廃墟。
そこから少し離れた場所に柚月は立っている。
どこにでもいそうな女子高生、というには語弊があった。
ブラウスに赤いリボン。
ベージュのカーディガンにプリーツスカートが風に揺れている。
そこまでなら何の違和感もない少女だが、足元のショートブーツだけが不自然だった。
さらに言うなら、肩のあたりで切り揃えられたブラウンの髪は、光の加減でさらに赤みを増す。
顔立ちも平凡ではあるが、強い煌めきを放つ瞳は猫科の動物を思わせた。
とどめには、眉間に皺を寄せ、薄い唇はへの字に曲げている。
機嫌は、とてつもなく悪そうだった。
「ここだな」
乾いた風の中でも、よく通る声だ。
「彼らは大貴族の姫を拐かした盗賊だ。いつものように遠慮はいらない。連中の鼻っ柱を折ってやれ」
声の主は、彼女ではない。
柚月の隣に立つ、白袴姿の青年だった。
物騒な物言いとは裏腹に、覇気のない口調である。
柚月は痙攣しそうになる眉を必死にこらえ、視線を横に滑らせた。