去って行った方向を見ると、男の姿は消えていた。
 人込みに紛れたのだろうが、本当に煙のように空気に溶けたかのようにも思えた。



 ただのホームレスとは考えにくい。



『また会おう。山猫娘』



 去り際に吐かれた言葉。
 信じたわけでは当然ない。


 ただ小声だというのに、やけに印象的で耳に残った。