あまりにも自然すぎて、避ける暇もなかった。
「おてんばもほどほどにしておけ。でなきゃ、厄介な事件に巻き込まれちまう」
さらに身を寄せて、男は小さな声で囁いてくる。
柚月が、言葉の意味を理解するよりも先に────
「柚ッ!」
急に視界を塞がれた。
ドンッと鈍い衝撃が体当たりしてくる。
「柚ッ、よかった~ッ!
栞は!? 栞は無事なのッ!?」
犯人は莉子だった。
抱きつかれた背後には、三人の警備員を連れている。
「柚。助けに来てくれて、ありがとう」
気付くと背後には栞が立っている。
自身も怖い思いをしたろうに、穏やかに親友に笑いかけてくれた。
「莉子が助けを呼んでくれたのね。ありがとう」
覗き込まれた莉子の瞳に、涙が盛り上がっていく。
感極まって、またまた栞に抱きついた。
わりと涙腺が弱い体質らしい。
絶対に、卒業式で号泣するタイプだ。
不意に、柚月は男の存在を思い出す。
(……いない……)