男の外見とは不釣り合いな代物である。
柚月の中で、警鐘が鳴り響く。
まだ警戒を解いてはいけない。そう理性が告げてくる。
「怪我なんかしてないけど」
そっけなく指摘すれば、男はふっと片笑んだ。
(おまえはそうでも、後ろのお友達は心配する)
ちらりと横目で柚月の後方に視線を送る。
わざと栞に聞こえないように、声をひそめたのだ。
その行動が、逆に柚月の警戒心をさらに強めた。
「いっそ清々しいな。その腕っぷし」
「……あんた、誰?」
「尋ねる前に、自分から名乗るのがマナーってもんだろ」
「知らない人に名前を教えちゃ駄目って、お兄ちゃんに言われてるの」
「そりゃ、しっかりした兄貴だな」
警戒を緩めない柚月に対して、男は笑った。
何が、そんなに愉快か不思議なくらいだ。
「けど、そろそろ自分の頭で考えていい年頃だぜ。特に運命の出逢いは待ってちゃ来ないぞ」
ホームレスのおじさんに、そんなこと言われても。
どう反応していいかわからず柚月が戸惑っていると、くしゃりと頭を撫でてくる。