夕方も近いというのにサングラスをかけいる。
隠された表情は、この状況を明らかに楽しんでいた。
その怪しげな雰囲気のせいで、変わり者のホームレスとしか思えない。
「それ以上は、見過ごせねぇな。警察に捕まりたくなけりゃ、さっさと消えろ」
ギャラリーも多くいることだし。
そう言外に含められ、顎をしゃくる。
騒ぎを遠巻きに眺める買い物客に、大神たちも焦りを覚えたようだった。
「……行くぞ」
言葉少なに仲間に指示すると、あっさりと逃げていった。
全員、痛む場所を押さえ、ぞろぞろと歩く無様な退場ではあったが。
それを無言で見ていた柚月は、安堵すら忘れた。
原因は、彼らではない。『捨てゼリフを吐かないあたりは立派だな』くらいにしか思うところはなかった。
それよりも、気になることが別にある。
「気合いの入ったじゃじゃ馬ぶりだな」
声の主は、助けに入ったホームレスだ。
不敵に笑いながら、柚月の手をとると布を巻つける。
先ほど、柱を撃った拳を隠すように。
ただのハンカチかと思いきや、緋色の桜が刺繍された上等な絹だ。