柚月は、何が起きたのかわからなかった。
親衛隊のひとりが叫んだ(ちなみに、頭部に包帯を巻いた男だ)ことで、我に返る。
「おまえ、少林寺拳法でも習ってんのかッ!?」
「いや、その……」
自分でも予想外の力に、柚月はさすがに動揺した。
鉄筋コンクリートの柱に、ヒビを入れる女子高生。
おかげで暴走族の戦意は落ちかけたが、柚月は気が気でない。
(────どういうこと?)
内心、ひどく狼狽する。
右の拳に異常はない。
ここは【月鎮郷】でもないのに、怪力が出せたのか。
それにしては、威力が低すぎる。向こうでなら、柱どころか白壁を粉砕するくらいの感覚だった。
どう考えていいかわからず、柚月が戦意を忘れたかけた時。
「────おいおい。女ひとりに大げさだな」
喉の奥で笑う声が聞こえた。
不意に、不良たちが後ろを振り向く。
彼らの向こうには、長身の男が立っていた。
歳は声からして、意外に若く二十代後半だろうか。
ボサボサの髪に、無精ひげ。
ポケットに両手を突っ込んだコートは、ぼろぼろで汚れていた。