「チ、イィィィィッ!」


 舌打ちしながら、大神が足に力を入れて振り切ろうとする。

 柚月も余計な抵抗をせず、あっさりと手離す。
 むしろ、それが狙いだった。

 蹴りの短所は、軸足が不安定になりやすい点である。
 本来、二本足で立っているのが、攻撃時には一本になるのだから当然と言えた。

 大神は最初の攻撃をいなされ、柚月の動きに驚いて抵抗したため、かえってバランスを崩してしまう。
 後ろの柱にしがみつき、振り返るだけの時間を稼げた。



「これで、終わりよッ!」

 柚月の勝利宣言。
 いつもなら、これで終わっていた。


 ただし、それを大神がわずかに首を傾げただけで、避けられる。
 柱に拳が吸い寄せられるようだった。



(─────しまっ)

 ようやく柚月も気付くが、もう遅い。



 ゴッ!
 鈍い衝撃が響く。

 拳から伝わる感触に、柚月は呼吸を詰まらせる。

「ッ!?」

 ビキッ!
 触れた柱がひび割れた。

 破片で頬を切った大神が、目を瞠る。

 反射的に引いた拳は無傷だ。
 痛みもない。