「く……ッ!」
わずかに身体を捻り、柚月は紙一重でかわす。
大神はさらに踏み込み、蹴りで後方へ下がらせた。
そんな中でも柚月が体勢を立て直すと、深追いを止めた。
微妙な距離を保ちつつ、両者、睨み合う。
時間にしてほんの数秒ほどだが、柚月は急いで得られた情報を確認する。
正面に立つ大神は拳を構えながらも、軽いステップを踏んでいる。
彼の戦闘スタイルは足技中心らしい。
拳の打撃を得意とする相手としては、懐に入りにくい敵だった。
柚月は額に張りついた前髪を軽く払いながら、納得する。
(……なるほど)
大神が何故、猿山のボスを気取っている理由がわかった。
動きや構えから、武道の心得があるようだった。
足技を多用してくる点から、空手かキックボクシングの類だと予想される。
柚月の瞳が硬度を増していく。
彼女の中で、大神に対する好感度はますます下がった。