どんな時も油断するな。
敵の攻撃など待つ必要はない。
常に、必殺の一撃を放て。
目の前で襲いかかるふたりを水面蹴りの要領で足を払い、転倒させる。
すぐに立ち上がると同時に突き出した掌底を、駆けてくる不良の顎に叩き込む。
(あと、三人……!)
周囲に視線を這わせ、柚月は神経を研ぎ澄ました。
『戦うって決めたら、躊躇っちゃいけないよ。ギリギリまで引きつけて、全力で撃ち込んでやりな』
幾度となく繰り返された言葉。
一対大勢の場合、まず頭を潰す────
そんなのは、実戦を知らない素人の浅知恵だ。
とにかく、手近にいる敵から確実に打ちのめせ。
どんなに腕に自信があっても、多勢に無勢。
ターゲットひとりを無傷で倒せる確率は低い。
ただでさえ数で劣っている状況では、些細な怪我も消耗も命取りになる。
利用できるもの全て利用して、勝機を掴め。
最初の攻撃をし損じても、決して諦めるな。
冷静に相手の力量を見極めろ。
無敵の人間なんか、いやしない。
必ず弱点はある。
柚月は、そう師匠に教わった。