「困ります……友達と待ち合わせしてるんです」
「いいじゃん。その友達も一緒に遊ぼうよ」
一階のエントランス。
婦人靴の販売エリア近くで、数人が固まっていた。
前述したとおり、栞はよくナンパされる。
大抵は、おとなしい感じの控えめな草食系男子に、なのだが。
今日は、運が悪いとしか言いようがない。
端目でもわかる、柄の悪そうな連中だった。
栞を囲んで、しつこく連れ出そうとしている。
遠巻きに様子を見る柚月は振り返った。
「なんで、栞と一緒にいなかったの?」
「先に栞が出て行っちゃったんだよ! 通りかかった靴の売り場を見てくるって……ッ」
責めるような口調に、親友は言葉を切る。
その表情は今にも泣きそうだ。
タッチの差で、栞が早くトイレから出たのだろう。
完璧な不可抗力だった。
まさか、栞も短時間で声をかけられるとも思わなかったろうし。
莉子を責めても仕方ない。
「ど、どどどどうしよう……」
「落ち着きなさい。莉子」
背後でひたすら狼狽える親友を宥める。
普段は強気なくせに、こういったアクシデントには弱い。