「なに。栞」
柚月は、ぶっきらぼうに訊く。
彼女の名前は、内海 栞(うつみ しおり)。
道を歩けばスカウトマンやナンパは当たり前、同じの通学電車を利用する他校生に塾帰りの小学生、迷った外国人などにも声をかけられる。
けれど、当の本人はその魅力的な外見を自慢げに振る舞ったりせず、弓道部や図書委員など地道な活動を続けている。
莉子などはしきりにモデルになればいいのにと零すが、栞は全く興味がないようだった。
春日といい、この親友ふたりといい、自分の周りは派手な人間ばかり。
毎回顔を合わせる度、東雲に『不細工』と言われても仕方ない気がしてきた。
「柚、最近いいことあったでしょ?」
突然、問われて柚月は一瞬どきりとする。
「別に、何もないけど?」
「嘘」
いとも簡単に、栞には見抜かれてしまう。
中学からの付き合いだからか、彼女にごまかしは通用しない。
年上の男性と付き合っていることもあってか、さらに磨きがかかった気がする。