というより、困っていた。
どうにも距離をうまく保てない。
山猫は野生の気性だから、不用意に触れても馴れ合いにしかならないのに。
からかうと、いつだって全力で反論してくる。
いちいち反応する彼女が面白くて、つい怒らせてしまうのだ。
笑顔なんて、数えきれるほどしか見ていない。
近頃、さらに負担を重ねたことでえらく嫌われた。
ご機嫌とり程度に折れてはみたが、あれしきの小細工で全てを許されるとも思わない。
自然と苦笑が洩れる。
もっとも、そんな気持ちさえ彼女にとっては迷惑な話だろうが。
東雲の心に呼応するように目の前にある水盤が、揺らめいた。
「…………」
片膝をついた姿勢のまま、じっとさざめく水をみつめること数秒。
東雲は手に持っていた、五色の小石を水盤の中に入れる。
蒼、白、朱、黒、黄色の石たちは、ぶつかり合い、水流に揺られて落ちていく。