「それは、そうですけど……」

「…………」

 東雲は、呆れた心地で宗真を見つめた。

 どうも、この弟子は他人の言葉を信じすぎる。
 術者として側に置いたのは間違いだったかもしれない。

 人によっては、今の宗真をはっきりと物を言わない子供と見る。
 だが、実際は文使いの話と師匠の主張を同じくらいに信用しているから、かえって何も決められないのだ。

 これでは先行きが不安である。
 彼が独り立ちする暁には、自分の跡目として全ての権限を譲るつもりなのに。



「あ、あの……なら、柚月さまは、どこかご加減でも悪いのでしょうか?」

 おずおずとした問いに、東雲は少しだけ片眉をつり上げた。

「先ほど、お師匠さまの言いつけで柚月さまをお迎えにあがったら、いつもと様子が違うようで……顔が赤かったような。ご本人は何でもないとおっしゃられていましたが、風邪でも召されたら大変です。
 そもそも、庭で何してたんです? わざわざ人払いまでして……」


 不思議そうに首を傾げる宗真を、東雲はじっと見つめ続けた。