「お師匠さま、【御門家】からの早文なんです!」

「あとで見るよ」

「ここでそんなことしたら、他の文と混じって行方がわからなくなるでしょう!? いい加減、柚月さまの片付けを期待しないでください!
 それに、文使いが返事を持って帰るようにとのご指示ですから、緊急の言伝です!」


「……わかったよ、文をくれ」

 痛いところを突いてくる弟子に根負けした東雲は手を差し出す。

「どうせ政務での愚痴か、新しい側室をよこせとかのくだらない用件だろ」

 ぶつぶつと文句を零しながら、文に目を通す。
 その横で、弟子の顔色が何故か青ざめていく。

「こんな時間に早文ということは……もしや、ご当主の御身に何か……ッ!?」

「落ち着け。
 あんな浄めすぎな場所で血が流れたら、もう少し【氣】が乱れる。警護する人間は、年貢泥棒と言って差し支えないほど大勢いるし、大体、ただの賊にあっさり殺される人間を当主を指名した覚えはない」

 きっぱりと否定すると、宗真は眉をハの字に寄せた。
 上目遣いにしゅんとした様子は、まさに飼い主の許しを待つ仔犬である。