天帝が決めたとされる寸分の違わぬ人々の宿命。
 ひとりひとりの紡ぐ因果の糸は、蜘蛛の巣のように絡み合っている。

 全体像を知り得ない東雲は、案外、そのことを楽しんでいた。

 ただ人の干渉でも、ほんの少しだけ道を変えられることを知ったから。


 占術のために意識を研ぎ澄ます最中、遠くで慌てた声が耳に届く。



「お師匠さま、お師匠さま!」

 床板を激しく踏み鳴らす足音が迫ってきても、東雲は無関心だった。
 揺れることのない水盤を凝視していると、几帳から弟子が飛び出してくる。

「大変です!
【御門家】からの早文が……あいたッ!」

 踏みつけた料紙に滑って、几帳ごと倒れた。

 東雲は視線さえ向けずに答える。

「そこに置いといてくれ」

 その言葉と同時に、宗真は勢いよく起き上がった。
 しっかり握っていた文を見せつけてくる。