同時刻。
春とはいえ、夜はまだ肌寒い。
濡れた前髪から冷えた雫が落ちてくる。
軽く袿を引っかけただけの格好で、東雲は文机の脇に視線を落とした。
将棋盤ほどの大きさで、底の浅い盥には水が張ってある。
手の中で、色のついた碁石ほどの小石をもてあそぶ。
その姿は扇情的だが、本人としては不精しているだけだ。
事実、周辺は相も変わらず乱雑に散らかった空間だが、局の主はこれが一番機能的だと信じている。
就寝前の沐浴と占術は、東雲の日課だ。
的中率は苑依と比べるだけ無意味だった。
大半は外れるが、東雲は気にしない。
むしろ、そのために占じる。
占術で予見した未来を変えるために。
東雲の個人的な見解だが、苑依のような精度の高い【星詠み】は意味がない。
知ったところで災難を回避できないし、無理にねじ曲げようとすれば、反動でこちらがとばっちりを食う。
人が『運命』と呼ぶ、無限に張り巡らした因果の糸。
特に『彼女』が絡むと、占術が乱れる。
元の気質なのか、異世界の住人だからなのかは、わからない。