どちらにせよ、珍しいことである。
 長谷川をはじめとする周囲の面々は驚きを隠せなかった。

 どんな素行の悪い生徒でも唯々諾々と従わせてきた日下部が、一介の女生徒に言い負かされている。

 そう受け取れる場面だった。



 しばらく、柚月たちは無言で睨み合う。
 やがて、日下部が降参したように小さな溜め息をついた。

「……わからんな」

「何が」

 柚月は、うんざりとした声音だった。
 さっきから論点のはっきりしない話題に付き合わされた身としては当然の反応だった。

「そこまで論破しておいて、何故、自らを卑下する?」

「あのね、世の中ってのは複雑でしょ。『私のやってることは全面的に正しい』なんて言う気さらさらないわよ」

 柚月が呆れぎみに答える。

 本人としては誰しも思うことだろうにと考えていたのだが。



「……なるほど」

 日下部が、興味深げに呟く。
 予想外の言葉に柚月は警戒するも、副委員長はさっさと話をまとめてしまった。

「その主張を認めるわけにはいかないが、おまえを警察へ突き出す気は失せた。これからは秩序ある行動を心がけるように」