「蒼衣 柚月さん!」

 張りのある威勢のいい声に、柚月は振り返る。
 スクールバックを肩にかけ、今まさに下校する途中だった。



 視線の先には、ひとりの女生徒が立っている。

 丸眼鏡に、三つ編み。
 膝が隠れる長いスカート。

 きちんと糊づけされているとわかるブレザーの制服に、乱れた箇所はない。

 見るからに規則に従う実直な性格が窺える。

 今や絶滅危惧種と言っても過言ではない、女生徒。
 風紀委員の長谷川 繭(はせがわ まゆ)だった。



 自然と柚月の眉に皺がよる。
 面倒なヤツに見つかったな、と、胸中で舌打ちした。



「なによ」

 不満も露に口を開けば、長谷川は少したじろいだ。
 柚月が女子に声をかけた時、大抵相手にそんな反応をされる。

 もしや、自分は同性にプレッシャーを与える顔つきなのだろうか。
 よほどのことがないかぎり、女子を敵と見なすことはないのだが。

 最近、殺伐とした日々を送ったせいかもしれない。

 無駄に敵意を振りまくのはやめよう。
 これでは、完璧にヤツがいうような狂犬になってしまう。