偶然、その場に居合わせた生徒は無言でことの成り行きを見ている。
 彼らは、誰ひとりとして柚月の言葉を理解できていない。


 おおよその高校生は、身体は十分大人に見えても、精神は未熟なままだ。
 大抵の物事を『好きか嫌いか』、『周囲と同じかそうでないか』、それくらいの価値基準しか決められないでいる。

 端的にいえば、『共感できるかできないか』が重要なのだ。

 それでいて、大した労力もなく他者より突出した能力を発揮する者に憧れる。
 当然、同じ年頃の男女にもてはやされなければ意味がない。
 それ以外のものは、将来的には意義のあることでも『ワケわかんないもの』として淘汰される。

 柚月は、まさに後者のタイプだった。
 犯罪被害者の気持ちをわかりやすい言葉で論じてみせても、共感など得られようはずもない。

 彼女自身も漠然と理解している。おそらく、自分の意見の方が少数派だと。

 むしろ周囲の生徒たちには、柚月の主張を黙って聞いている日下部の方が印象的に映ったことだろう。