ヤツは閻魔帳ならぬ黒革の手帳を持っていて、それには朝吹の生徒はもちろん他校生の弱みなどが詳細に綴られているのだとか。
風紀の副委員長だとは知らなかったが、柚月の友達が美形だと絶賛していた。
さして興味の引かれなかった柚月は、そのことをすっかり忘れていたのだ。
副委員長と言われても顔を思い出せなかったのは、そのためである。
「先日は失礼した。用があるなら俺から出向くべきだったな」
そこまで言いかけて、柚月を不思議そうに見下ろした。
「…………今まで、何をしていた?」
「見てわかんない? 掃除してたんだけど」
手にしていたT字ホウキを見せると、わずかにフッと息を洩らした。
どうやら苦笑したらしい。
「報告書通りだな。無遅刻、無欠席。授業態度も生活態度も、いたって真面目。一部の服装違反と問題行動さえなければ、模範生で通るだろうに」
何だ、その報告書って。
柚月が脱力しかけた時、不意に長谷川と目が合った。
すぐに顔を逸らしたあたりで、報告書とやらの作成者に察しがついた。