ただ、そこにいるだけで重厚な威圧感を与えてくる。


 その特徴が、柚月には見覚えがあった。

「あんたは……」

「日下部副委員長には敬語を使ってください。先輩なんですから」

 隣に立つ長谷川の言葉で、思い出す。



 確か、名前は日下部 悟(くさかべ さとる)。

 顔だけは知っていた。

 一年上の先輩で、学年トップの秀才だ。
 全国模試では常に上位にいて、教師陣が医学部へ送り出そうと躍起になっているらしい。


 おまけに、凄味のある美形である。
 学年を問わず女生徒に人気だ。


 普通、このタイプのインテリは不良たちに実力行使でプライドを粉砕されるのだが。


 この男、噂では数々の伝説を残す。

 煙草を吸っていた男子生徒たちを注意して、反感を買うどころか禁煙させたとか。

 非効率な授業をする教師に謎の論理を展開し、辞職に追い込んだとか。

 朝吹の女子生徒に痴漢をした犯人を見つけ出して、本人の前で土下座をさせたとか。


 それゆえなのか、別名『朝吹の閻魔大王』と呼ばれる。