東雲は、何故か柚月を庭へ連れ出した。
いつも賑やかな広い敷地には誰もいない。
「ここにするか」
そう告げた東雲は、一本の葉桜の前に立つ。
「範囲は……六尺くらいでいいな」
ぶつぶつとぼやきながら、純白の袖を振る。
「《四方六尺 因果剥離》」
東雲が印を結ぶと、キンッと耳鳴りのような音が響く。
じわじわと周囲の空気が変化する。
よくは知らないが、東雲は召喚士である前に【言霊(ことだま)】遣いであるらしい。
彼の声と言葉で、術を発動させる。
数回ほど間近に見た柚月には魔法のように思えた。
「《対象【白桜】 幻影花 発動》」
唱えた直後に強い風が吹く。
きつく目を閉じて、収まるのを待ったあと。
恐る恐る開けた視界には、
「な、なんで……?」
満開の桜の花が現れた。
先ほどまで、新緑が生い茂る樹木だったのに。
淡い色の花が咲き誇っている。
「初歩的な幻術だ。術者が思い描いた景色を現実と擦り合わせ、投影する」