東雲が手をのばす。
 指で頭を撫でると、白狐は気持ちよさげに目を閉じた。


「昨日のことも意地悪で言ったんじゃない。もう終わったことだから、むし返すのに気が引けたんだ」

「終わってる?」

 白狐を抱いたまま、柚月が目を丸くする。

 そういえば、東雲が燐姫の説明をした時、


『僕の前任者ってとこかな。とても優れた術者で、苑依姫と同じ【星詠み】の力を持ってた』


 と、過去形だった。



 今現在は、役目を退いているとも取れるが────



「燐姫は、僕の育ての親だ。内乱の混乱時、両親を亡くし、他に身寄りのなかった僕を拾って、術者として育ててくれた」

「それがどういう……」

 柚月は、のろのろと尋ねた。

 会話の脈絡がなかったように思えたからだ。
 ほんのわずか胸に湧いた予感を深く考えずに。



 答える前に、東雲は軽く笑ってみせる。
 その顔は、どこか寂しげだった。



「三年前に亡くなった」




 そう告げられた柚月の頭は真っ白になった。

 思わず視線を伏せてしまう。