「やだ、くすぐったい!」

 首や頬に触れる柔らかさと温かさ。
 今までの苛立ちが嘘のように吹き飛んだ。



 白狐の胸に抱いて、その可愛いさを存分に愛でる。

 全精力を注ぐと言ってもいい。
 ひたすら白夜と遊ぶことに没頭する。

 ここがどこか、来た目的、目の前には天敵がいることすら柚月が忘れかけた頃、



「悪かった」



 遠慮がちな声をかけられる。

「え、なになに? もう何でもいい~」


【白夜】を手に抱いて頬ずりする柚月は、骨抜きにされた状態ではあったが。

 すぐに、はたと我に返る。


 おずおずと視線をあげれば、いつもの眠たげな表情の東雲がいる。


(……もしかして、『悪かった』って言った?)



 空耳か、幻聴か。
 それくらい、反応に困る単語だった。

 あの東雲が謝罪? 何を?
 聞き間違いと疑うのが妥当だろう。


「本当に悪かったよ。
 今日の呼び出しは、今後のことを考えてね。そいつに君の霊気を覚えさせたかった」

 その言葉は、どこか戸惑っているように見えた。