しばらく顔も見たくなかったので、週末は用事があるから絶対に呼び出さないでと念押しまでしたのに。
約束のしがいのない男。
それも東雲の特徴だ。
当然だが、東雲が気にした様子はない。
普段と違うことといえば、ヤツが近づいてきて膝を折ったくらいか。
至近距離にある整った顔を見たくなくて、ぷいっと視線を逸らす。
「手を出せ」
「いやよ」
「いいから」
「い・や」
誰が、従ってやるものか。
絶対に許してなんかやらない。
徹底抗戦の覚悟で守りを固める柚月に対し、東雲は浅い溜め息をつく。
計画を変更したようで、袖から一枚の紙を取り出す。
長方形の掌より少し大きいサイズで、何重もの線や紋様などが筆で描かれいる。
柚月は、神社などで見かけるお札に似ていると思った。
それを東雲は重ねた自身の掌に押し込む。
小声で何かを呟き、掌の中にふっと息を吹きかけて、こちらに差し出してくる。