「一つの賭けでもあったの。
 もし凌太がこのピアスを捨てたりするような男だったら……それはもうそれまでだって……。綺麗さっぱり忘れてしまおうって……。

 だけどもしっ……たとえ同情でも、このピアスを持っていてくれていたんならっ……」

「っ……」


途端にぐらつく体。

自分の胸元には、涙をぽろぽろとこぼす美空が抱き着いていた。


拒むことも
交わすことも出来ないほど
このピアスに隠された事実に驚いていて……。



「ねえ、凌太っ……。
 もう一度あたしとやり直そうよっ……。

 凌太だって本当はまだ、あたしのこと好きでいてくれるでしょ?」



下から見上げてくる懇願の眼差し。


美空の言うとおりだ。

本当に美空のことをなんとも思っていなかったら
たとえこれが、形見と言う大切なものでも捨てることはできた。

5年も前の女のものなんて、とっておいても無駄なだけだって……。



「美空……」



だけど……
今もなお、美空のピアスが
俺の手元に残っていたのは……


「凌太……」


未練から捨てることが出来なかったからじゃない。




「ごめん。

 俺はもう、お前を好きになることはない」




俺の心の記憶に
必要ないと思ったから、忘れて捨てることが出来なかっただけなんだ。