手のひらに落とされたピアスを、美空はじっと見つめ
悲しげな表情を続けていた。


ようやく自分の母親の形見を受け取ったというのに、浮かない表情。


美空はぎゅっとそれを握ると、
涙を溜めた瞳で顔を上げた。



「これであたしと凌太を繋ぐもの……なくなっちゃったね」



そう言って、無理やりな笑顔を見せた。


愛しいと感じていたはずの笑顔。
守ってあげたいと誓っていた彼女。

少なからず、胸が痛んだのは事実で……
だけどそれ以上に自分には大事なものがあるからと、手を伸ばしたい衝動を抑えた。


「わざと、だったの。本当は……」
「は?」


「このピアス、あたし、わざと凌太の家に置いていったんだよ」


美空から伝えられた言葉は、俺の予想だにしていなかったことだった。


「仕事を選んで凌太と別れようと決めたとき、それでもやっぱり好きだった。
 だからいつかまた凌太のもとへ戻れるよう、自分の痕を残していきたくて……。
 このピアスなら、凌太は絶対に捨てないって分かってたから……。
 凌太にいつまでもあたしを想ってもらいたくて、これを忘れていったんだよ」


初めて知った、このピアスが俺のもとにある事実。


俺らはすげぇアホだった。

お互いにこのピアスを駆け引きに使って
相手が行動を起こすのを待ってる。


それが何の意味も持たないと知らずに……。