「凌太!!」
待ち合わせの場所。
スタジオの近くの、小さな公園。
こんな朝早くに公園に来る人なんて誰もいなくて
ただ一人ベンチに座る俺のもとに、走って一人の人物がやってきた。
「ごめんね、遅れちゃった」
「いや、大丈夫」
待ち合わせ時間よりも、10分遅れた時間。
いつも美空はそうだった。
待ち合わせきっかりに来ることはなくて、少しだけ遅れた時間に現れる。
そんなところも変わってないのか……。
「あのさ、まだ少し時間あるし、よかったら………」
「ほら、これ」
美空が何かを言いかける前に、ポケットからさっと取り出して目の前に差し出した。
これ以上何かするつもりはない。
俺の用は、このピアスを美空に返すことだけだから。
「………うん…」
明るかった美空の表情はいっきに暗くなって
差し出された手に、自分の手のひらを見せた。
その小さな手に、握っていたピアスを落とす。
「悪かったな。ずっと持ってて……」
ほんと……
これは俺の情けない悪あがきだった。