あれから一度引っ越しをしているけど
どこにしまいこんだのかは覚えてる。
棚の一番下の、手が届かないほどの奥。
引っ越したのは、今の会社に勤めるようになってからで
美空と別れてから一年以上経ったとき。
それでもまだ、未練ばかりが残っていて
バカみたいな可能性にかけて、俺はずっとそのピアスを持っていた。
だけど気づけば、奥においやられたその存在は頭の中から消えていき
玲奈と出逢ってからは、美空の存在を思い出すことも少なくなっていった。
両想いになるころには
それこそ、ピアスのことなんて頭の中から完全に消えていたし、
美空への未練も、どこにもなくなっていた。
《あのね……それで、よかったら返してほしくて……》
遠慮がちに言われた言葉。
正直、返すのは全然かまわない。
むしろ、このまま美空の母親の形見となるものが、この部屋にあるほうが困る。