《実はね……、凌太と別れたくらいにピアスを片方なくしちゃってるの……。
 だからもしかしたら、凌太の部屋に置いていっちゃったんじゃないかな……って……》


受話器越しに尋ねてくる声は、頼りなさげのか細い声で……。

最悪だ。
そんなこと、忘れてしまっていればよかったのに……



「………ああ。
 俺の部屋に……ある」



わずかに残っていた記憶の片隅に
そのピアスの存在が大きく現れてしまった。


《ほんとに!?》
「ああ……。俺も別れてから気づいて……。
 いつか返そうと思って、ずっとしまってたんだ」
《よかったっ……》


5年前のあの日。
美空に突然別れを告げられて、なかなか受け入れることは出来なかった。


しばらくして
ふと洗面所にキラリと光る何かを見つけた。

手を伸ばして拾い上げてみると、それは見慣れた小さなピアスで……


(……)


美空の母親の形見と言われていた大事なピアス。

すぐに返すことも
捨ててしまことも出来たけど

このピアスを口実に、彼女が再び俺に会いに来てくれる日が来るんじゃないかと思って、俺はそのピアスを部屋の奥底へと仕舞い込んだんだ。