「……伊藤さんも今帰り?」
さっきまで、人のことを「玲奈」と呼んでいたくせに、わざとらしく名字へと変えている。
なんなんだろう……。
なんでこんなに嫌味ったらしいの?
さっき香織と話していた会話が頭の中でリピートされ、胸がズキズキと痛んだ。
文句を言ってやろう。
思いきり罵ってやろう。
ゲームに飽きたのは、
私のほうだと……。
「岬さん」
重たくなった足を踏み出し、彼のすぐ傍まで近寄った。
目の前まで来た私に、岬さんは少しだけ構えている。
それとも殴ってやろうか。
一発くらい、平手でも加えてやらないと気が収まらない。
このいつも余裕そうな顔を……
女子を見下しているこの男を……
私は………
「完全に……負けですよ。私の」
強がることも出来なかった。