「おはよー」
「おはようございます」


業務開始の少し前になって、昨日私に書類のファイリングを頼んだ課長が出社した。

デスクに置かれている書類。
課長はそれをパラパラとみると、特に反応することなく自分のパソコンを起動させた。

まあ、上の人たちなんてそんなもんだ。
自分の雑用は、事務がやるもの。

案の定、昨日だって書類を持っていく頃には、課長はとっくに帰ったあとだった。



「え?あっ……」


突然グイと腕を引かれ、何事かと思って顔をあげると、そこには岬さんの姿が。
意味が分からず、グイグイと腕を引かれた場所は、課長の前であって……。


「課長」
「ん?どうした、岬」
「ちゃんと伊藤さんにお礼を言ってくださいよ」
「え?」
「ちょっ、岬さんっ……」


突然の言いつけに、私のほうが戸惑った。


「あ、ああ……。ありがとな」


課長もまさかの申し出に、流されるようにお礼の言葉を返してくれて……。


「それと、無理難題な業務の押し付けはよくないですよ。
 終電なくなったところで、タクシー代を給付してくれるならいいですけど」

「……」


さすがにその言葉には、課長も言葉を詰まらせ、岬さんは頭をぺこりと下げると、私の腕を引いたままデスクへと戻っていった。