「へえ、そうなんだ。ついに別れ話を切り出したか」
 
帆乃香が、手にしていたシャープペンをくるりと回して言った。
 
今は産業経済学の講義の時間。
 
この講義の担当は、生徒の方も振り向かずに、淡々と板書をするだけの教授だ。
 
教室内がざわついていても、全く気にしない。
 
それをいいことに、私と帆乃香は雑談をしていた。
 
さやかは、私たちの横で、必死に板書を写している。
 
あとで見せてもらえばいいや、と、私と帆乃香は暢気だった。
 
珍しく鈴も、学校に来ていた。
 
今日は眠くなかったし、家にいても暇だから、という理由だそうだ。
 
暇つぶしに学校に来るって、何かおかしい。
 
だけど、鈴にも話を聞いて欲しかったから、ちょうどよかった。

「別れな、別れな。大体、梨聖と想太くんって、つきあってるように見えなかったよね」

「そうね。私もつきあってる実感はなかったな。盛り上がってたのは、つきあい始めの半年くらいで」
 
鈴の言葉に、私は同調する。

「いいきっかけなんじゃない、別に好きなひとができたのは。潮時なんだよ」
 
と、帆乃香。

「だけど、何だかめんどくさいことになってさー」
 
私たちは、普段学食とかで話すサイズの声で話している。
 
ざわついている構内で、教授は淡々と板書をしている。
 
気にならないのだろうか。