私のことを、何度かキャンパス内で見かけていた、とは言ってたけれど。

声をかけられていても、その場で終わっていたかもしれない。

「家出るって、……いつ?」

「早くて今月中には。一人暮らしなんて初めてだ」

「料理とかどうするんですか」

「チャレンジだな。高校の調理実習以来の」

「でも、器用そうな指してますよ」

「あー。敬語もいらないから」

「はい――。あ、うん」

「梨聖ちゃんにご飯つくってもらおっかな」

テーブルに肩ヒジをついて、小首を傾げて彼は言う。

「いいよ。料理は人並みにできます」

「おっ。じゃあ、期待しよっかな」

「うん」

――だけど、実家があるのに同じ市内で一人暮らしさせるなんて、ずいぶんと夢くんの家はお金持ってるんだなぁ。