ああ、でも、渡海さん家を出るんだっけか。

私でも、彼の色んな顔、見ることができるかな。

「なぁ、梨聖ちゃん。俺もっと仲良くなりたいから、俺のことも名前で呼んでよ」

メガネの奥のくりっとした黒い瞳が私をとらえた。

「……えっと――」

「夢大(ゆうた)」

「夢(ゆう)……くん」

「うん。それでいい。これでぐっと仲良くなった」

そう言って笑う彼。

まぶしいくらいの笑顔。

まだ出会ったばかりなのに。

恋ってタイミングね。

もし、あの時私たちが海へ行かなかったら。

渡海さん――夢くんが、通りかからなかったら。

私たちは、話すキッカケがないまま、すれ違っていたんだよね。