「……」
 
想太は下を向いたまま、黙っていた。
 
やがて、私の手首も、離してくれた。
 
こんなにケンカになるなんて、思ってもみなかった。
 
想太は、想太なりに私を愛してくれていたのだ。
 
それを思うと、やるせない気分になってしまった。
 
あの日、あの時、私が渡海さんと出会わなければ、こうして想太を傷つけることにはならなかった。
 
けれど、私たちは出会ってしまった。
 
もう、時間を後戻りすることは、できない。

「ごめんね、想太。もう、私、そのひとと生きていきたいの」

「……ない」
 
想太が小さく呟いた。

「え?」

「俺は、別れない」

「そんなこと言われたって、困るよ」