ぎゅっと力を入れて、握った。
 
涼くんは驚いた素振りも見せず、ただ黙って前を向いていた。
 
それから、タクシーが大学前に着くまで、私たちはずっと黙ったままだった。
  
車から降りると、涼くんも一緒に降りた。

「タクシーで帰らないの?」

「ああ。ここから電車で帰るよ」

「そう、気をつけてね」

「……」
 
涼くんは、何も言わずに私を見つめる。
 
その黒目がちの瞳が、真っ直ぐ私に向けられている。
 
何だろう。私の顔に、何かついてる? そんなことを思った矢先だった。

「香林」

「は、はい」

「――俺と、つきあってくれないか」
 
病院の他に、どこか連れて行きたいところでもあるのだろうか。

「つきあうって、どこに?」