涼くんの素顔も、垣間見れた。
 
私はここにきて初めて、涼くんに好感を持ったのだった。
 
帰りのタクシーでは、来た時よりも涼くんは話してくれた。

「母親が死んだら、俺が弟の面倒見なきゃいけなくなる。だから、手に職をつけたいと思って、薬科大に進んだんだ。6年制のところじゃなくて、4年制のところを選んだ」

「凄いね。ちゃんと考えてるんだね」

「……俺が就職するまで、母親が持つかどうか……」
 
私は何も言えなかった。何を言っても、軽々しく聞こえるだろうと思い、口をつぐんでいた。
 
涼くんのお父さんは愛人を作って出て行ったと言っていた。
 
お母さんがなくなったら、小さい弟さんとふたりで暮らしていくことになるのだろう。
 
きっと、涼くんは不安で一杯だと思う。
 
気休めは、言えない。
 
その代わりに、私は涼くんの手をとった。