「は? 名前も覚えてないの?」

「だって、名乗ったのだって、あの飲み会の初めだけだろ。その後はあんた、すぐ帰っちゃったし」
 
私は肩をがくりと落とした。あんた、と今まで呼んでいたのは私の名を知らなかったからだったのか。

「香林梨聖」

「解った。香林な」

「うん」
 
7階のドアが開き、私たちは降りた。
 
ナースステーションの前を通ると、“循環器科”とプレートが天井に吊るされていた。
 
循環器って、何の病気なんだろう。
 
私のこころの声を聞いてか、涼くんが静かに言った。

「母親、心臓悪くしてさ。あんまりもたないんだって」
 
心臓……長くもたない。私は軽いショックを覚えた。
 
彼の科白がリフレインする。
 
だから、彼女としての私を紹介したかったのか。