運転手さんが笑顔を見せる。涼くんとは違う、人懐こい笑顔。
 
客商売って、愛想だよな、なんて思ってしまう。笑顔ひとつで、相手のこころって和らぐ。

お会計を済ませた彼と私は、タクシーを降りた。
 
涼くんは先だってずんずんと建物の中に入っていく。
 
私も慌てて追いかける。
 
病院に入ったところの売店で、花のアレンジメントを買った。
 
籠入りだし、これなら花瓶を用意する必要もないだろう。
 
外来の待合室を抜け、長い廊下を歩き、エレベーターの前に来た。
 
エレベーターは6基もあって、何か仰々しさを感じた。
 
チン、と音が鳴って、扉が開いた。
 
乗客は、誰もいなかった。
 
涼くんは、7階のボタンを押し、私を振り返った。

「あんた」

「はい」

「名前なんだっけ?」