涼くんは、杯を置いた。
 
何か、言いよどんでいるようだ。

「非常に言いにくいんだけど」

「うん、何?」

「……」
 
涼くんはまた黙ってしまった。

 私もお酒を飲む手を止める。
 
一体、何を云おうとしているのだろう。言いにくいことって、何だろう。

「……俺の、母親に会って欲しいんだけど」

「は?」

「彼女のフリして欲しいんだ」

「か、のじょ?」
 
私のあたまの中はクエスチョンマークで一杯になった。酔いも一気に冷めた気分だ。

「彼女として、あんたを母親に紹介したいんだ」

「ちょっと待って。それってどういう意味?」

「理由は後で話す。頼む。時間がないんだ」
 
涼くんは膝に両手をついて、あたまを下げた。