「そうか……」
 
涼くんはおちょこを口にして、かみ締める。
 
またしばしの沈黙があった。
 
2合のとっくりは、すぐに空になった。
 
私がもうひとつ、熱燗を注文した。

「……俺は、父親がいない」

「そうなんだ」
 
私もおちょこに口をつける。身体がほどよく温まってきた。

「……なんでなのか、聞かないのか?」

「え、話したいなら聞くけど」

「詮索しないんだな」

「聞かれたくないことだって、あるでしょう。私は両親の話はオープンにしてるけど。別に淋しくないし、哀しくないから」
 
ふむ、と涼くんは頷く。

「俺は、淋しかったな。親父が出て行った時」

「出て行っちゃったの」