「渡海さんは、何で来たんですか?」

すると彼は、黙って右折してから言った。

「海っていうのはね、行くのに理由なんてないんだよ」

と言い、ひとつ、おいてから。

「――なんてね」

と、小さく言った。

「キザだったな」

そう、つけくわえた。

「いえ――。全然。その理由、納得しますよ。うん。私たちだって、理由もなく、とにかく“海ダーッ”ってノリで来たんですから」

「そっか。――拉致っちゃって悪かったね」

「いえ。私、あなたともっとお話してみたかったし」

「僕もだ。キャンパス内で、ずっと君に声をかける機会をうかがっていたんだよ」

「――」

頬が熱い。

こんな格好いい人に、そんなこと言われたら、そりゃ心の中に花が舞い乱れる。