ちゃんと、私の好きな苺のショートが入っていた。

私は昔から、シンプルな苺のケーキが好きだった。

母親は、覚えていてくれたのだ。

「ほら、早く」

母親がせっつく。私は我に返って、ケーキの箱をリビングに届ける。

お父さんはいつものように、新聞を広げていたし、お姉ちゃんはテレビのワイドショーを見ていて、お兄ちゃんはというと、ソファに寝転んで漫画雑誌を読んでいた。

いつもの、平和な風景。

これを見られるのも、最後なのだ。

しんみりしそうになっていると、お兄ちゃんが声を飛ばしてきた。

「梨聖~。親公認の家出? っつーか駆け落ちだもんな。やることやるじゃん」

いつもの口を叩くお兄ちゃん。

「家出でも、駆け落ちでもないもん」

私はついムキになってしまう。

「嫁入りってか? ははは。梨聖みたいなお子ちゃま、嫁にもらうヤツの気がしれん」

「はいはい。私の魅力は、解るひとにしか解らないのよ」