あ、そうか、学生証……。
 
学生証を翳さないと、ゲートは閉まってしまうのだった。
 
私は鞄から慌てて財布を出し、学生証を手にした。
 
ゲートに翳すと、ピピッと音がして、行く手が開いた。
 
夢くんは、どこだろう。
 
大学の図書館は2階建てになっていて、1階は雑誌や新聞、音楽やDVDが見られるスペースになっている。
 
2階は、小説や専門書だ。
 
この時間、ひと気のない図書館の1階をぐるりと回り、夢くんらしき翳がないと解ると、急いで階段を上り、次のフロアを目指した。
 
重厚な本が並んでいる。かすかに黴の匂いがする。
 
私は彼の姿を必死で探した。
 
図書館にいる、なんて嘘だったのかしら。
 
私が安心して鈴たちといられるように、夢くんの気遣いだったのかしら。 
 
そう思っていたところ、私の目はひとつの翳を捉えた。
 
いた――。