私が息をあらがせて、彼の車、青のインテグラを見つけた時、彼はエンジンはかけずに車の中にいた。

私に気がつくと、助手席のロックを解いてくれた。

「失礼します」

「はい。どうぞ」

私は前に向き直る彼をちらっと見た。

横顔も、格好いい。黒ブチのメガネも、よく似合っている。

“優しいお兄さん”的雰囲気を醸し出している。

ちいさな頃、欲しかったな。こういうお兄さん。

頭も良くて、モテて、だけど、妹の私には格別に優しい、そんな理想のお兄さん。

今いるお兄ちゃん――実際は従兄弟にあたるひとだけれども、彼は活発で、女遊びが激しくて、

全然理想のお兄ちゃんではない。

この人、私と同じ年齢……か、少し上だろうな。

大学生かな。平日のこんな時間にこんな場所に、いるだなんて、ね。

車に乗った途端、よその人のうちに行ったような香りを覚えた。

シトラスフレッシュの香り。かわいらしい芳香ビンが、助手席のダッシュボードの上にちょこんと乗っていた。