いきなり現れた、見ず知らずの男の人。

大して言葉も交わしていないし、身分だって解らないのに。

ちいさな頃、「知らない人にはついていかないこと」と散々言われたけれども。

初対面で、“この人ともっと一緒にいたい”そう思ったんだ。

彼は私の返事を受け、スッと立つと、

「車、行ってる。青のインテグラ」

と言い、今度は海に平行ではなく、海を背にして駐車場へと歩いて行った。

彼の姿が砂浜から消えた頃、私は海ではしゃぐ友達たちに向かって大声で叫んだ。

「ごめーん。先、帰るねー!」

風に乗って、私の声は彼女たちに届いた。

「あー、解ったよー」

その声を聞いて、私は踵をひる返し、走りだした。

「えー、ちょっと、帰るってー?」

「一体、どうやって?」

「ちょっと梨聖――!?」